大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

神戸家庭裁判所姫路支部 昭和48年(家)120号 審判 1975年10月06日

申立人 桜井静(仮名)

相手方 森岡幸(仮名) 外四名

主文

一  相手方桜井輝久は、被相続人の遺産である姫路市○○区×××町二丁目二五番地、境内地、一、一一四平方メートルを取得する。

二  相手方桜井輝久は、自己の相続分を超えた遺産を取得する代償として、本審判確定の日から二ヵ月内に

申立人桜井静に対し 金二八五万二、〇〇〇円

相手方黒田弘史に対し 金九五万一、〇〇〇円

相手方桜井ミチに対し 金五九万四、〇〇〇円

を持参または送金して友払え。

三  第一項の物件価格の鑑定費用五万円は、申立人桜井静および相手方桜井輝久の均等負担とする。

理由

第一  申立人は被相続人の遺産の分割を求めた。

第二  調査、審理の結果次の事実が認められる。

1  被相続人桜井皓悦は昭和二八年二月二日死亡し、その子である申立人桜井静、相手方森岡幸、桜井輝久、黒田弘史、田村明夫および申立外桜井清悦(相手方桜井ミチの夫、本籍、最後の住所いずれも桜井ミチの本籍地に同じ)の六名がその遺産を相続した。

2  上記桜井清悦は昭和三一年一一月一九日死亡し、子がなかつたため、その妻桜井ミチと清悦の兄弟姉妹である前項記載の五名が清悦の遺産を相続した。

3  してみれば本件当事者の被相続人桜井皓悦の遺産に対する相続分は民法九〇〇条により次のとおりとなる。

桜井ミチ 1/6×2/3 = 1/9

その他の当事者 1/6+(1/6×1/3)×1/6 = (16/90)

4  ところで田村明夫は昭和四六年一〇月一三日付譲渡書と題する書面を交付し、森岡幸は同年一〇月二一日付譲渡書と題する書面を交付し、それぞれその相続分を申立人に譲渡する意思表示をなし、そのころその意思表示は申立人に到達したものと認められる。上記両名の相続分の譲渡については対価の約定がなく、無償譲渡であり贈与と認められる。しかして書面による贈与は民法五五〇条の定めにより取消すことができないので以後田村明夫と森岡幸が譲渡につき、破棄、破約の意思表示をしても取消の効果を生じない。

してみれば申立人の相続分はその固有の相続分と合わせて(16/90)×3 = (48/90)となる。

5  したがつて各当事者の被相続人の遺産に対する相続分は、結局

申立人 (48/90)

黒田弘史、桜井輝久 各(16/90)

桜井ミチ (10/90)

田村明夫、森岡幸 各0

となる。

6  ところで主文掲記の物件(以下本件土地という)は被相続人の遺産と認められるところ、これが更地価格(評価額)は不動産鑑定士中野規雄の鑑定の結果二、六七三万六、〇〇〇円であり当裁判所もこれを相当と認める。

7  本件土地使用に関しては、本件土地上に事務所登記のある申立外○○寺(宗教法人、浄土真宗本願寺派)と被相続人との間に明示的な契約書は存在しないが、下記諸般の事情から、両者間に黙示的に、本件土地を○○寺が必要とするかぎり半永久的に建物敷地として無償で使用させるとの借地権(地上権)設定契約が成立したものと認める。

(1)  ○○寺は古く江戸時代寛永のころ現在の地に開基された名刹で、現在の七間四方の本堂が建立されたのは明治一一年ごろ、また鐘楼ができたのは大正三年ごろと認められる。

(2)  本件土地は地目境内地として登記されており、その使用目的が寺院の敷地ないしそれに準ずる寺用の地域として使用するために提供されていることが明白である。しかして前掲本堂および鐘楼は本件土地上に位置し、まさに寺院の主要建物の敷地として使用されている。なおその範囲は、古くから石塁をもつて区画され、昭和四四年ごろその上にブロック塀が築かれた。

(3)  ○○寺は上記のとおりこれまで永年にわたつて現在地にあつたのみならず、現在檀家が一三〇戸余りあり、寺院の性格上および上記事情から今後とも半永久的に現在地にあり、したがつて半永久的に本件土地を必要とするものと推認される。

(4)  次に貸主側の事情をみるに、本件土地所有名義人である被相続人は明治三五年三月○○寺の住職に就任し、以来四五年余その任にあり、昭和二二年その子桜井清悦に移り、被相続人は昭和三一年一一月一九日死亡し、その後同三八年一二月までは代務住職菊地健一があり、その後相手方桜井輝久が住職となり現在に至つている。

被相続人は○○寺が現行の宗教法人となるはるか以前からその没するまで本件土地を同寺に使用させその間地代を受領した形跡は全く無い。このことは同寺の住職にあつた被相続人としては条理にかなつたやり方であつたと推認される。

してみれば被相続人は当時本件土地の価値の大部分を○○寺に使用権として無償供与したものであつて、同寺は更地価格の大部分に相当する価値を有する借地権を取得したものと認められる。しかしてその更地価格に対する割合は、姫路市内における最も強い借地権の割合が八〇%であること(不動産鑑定士中野規雄の供述)その他全国各地の借地権の割合を参酌して八〇%と認める。してみれば本件土地につき被相続人に残された抵土権の評価額は二、六七三万六、〇〇〇円×(20/100) = 五三四万七、二〇〇円ということになる。したがつて本件当事者の相続した本件土地の評価額も五三四万七、二〇〇円ということになる。

8  本件土地については○○寺が使用権を有するところ、現在その住職は桜井輝久であるから、将来同寺と土地所有者間の関係を円満に保つために、その所有者を桜井輝久と定めるのが相当である。

ところで桜井輝久は本件土地につき(16/90)の相続分を有するにすぎないので、その全部を取得させるばあいには、自己の相続分を超えた遺産を取得する代償として、他の相続人に対し、その相続分に応じた評価金額、すなわち

申立人に対し五三四万七、二〇〇円×(48/90)≒二八五万二、〇〇〇円

黒田弘史に対し五三四万七、二〇〇円×(16/90)≒九五万一、〇〇〇円

桜井ミチに対し五三四万七、二〇〇円×(10/90)≒五九万四、〇〇〇円

を支払わせるのが相当である。

9  本件土地鑑定費用五万円については申立人と桜井輝久に均等負担させるのが相当である(両名において予納支払ずみ)

よつて家事審判法九条、同規則一〇九条に則り、なお手続費用の分担につき家事審判法七条、非訟事件手続法二七条を適用して主文のとおり審判する。

(家事審判官 梶田寿雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例